自由報道協会主催の記者会見で答える一色正春・元海上保安官。メディアへの露出はこれが最後になりそうだ。(21日、海洋船舶ビル。写真:筆者撮影)。
2010年、最大の国内ニュースを提供した男は言葉少なだった。典型的な行動派だ。昨年11月、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が体当たりしてくる映像をYouTubeに投稿したsengoku38こと元海上保安官の一色正春氏が21日、記者会見(主催:自由報道協会)を開いた。
オールドメディア全盛時代であれば、この種の映像はテレビ局に持ち込むものと相場が決まっていた。だが一色氏は先ずCNNに送った。取り上げてもらえなかったため地元神戸のインターネットカフェからYouTubeに投稿した。
海外メディアに映像を送った理由について一色氏は「一発勝負なので失敗したらいけない。海外メディアの方が成功しやすい。世界に向けて発信する場合、第三国のメディアの方が客観性があるから」とした。
一色氏は日本のテレビ局への批判は控えた。だが、「海外のメディアの方が成功しやすい」というのは、“日本のテレビ局に持ち込んだらお上に抜ける危険性がある”ということだ。
第三国のメディアの方が客観性があるというのは、内向きの日本メディアに対する遠回しの批判だ。日本のメディアは外遊先での総理の記者会見も日本の記者クラブだけなどと排他的だ。一色氏が求めた客観性などない。
YouTubeへの流出をめぐっては識者や政治家から「国家の規律が守れなくなる」「2・26のようなクーデター」などとする批判的な見解が数多くあった。
これに対する一色氏の答えは明快だった。「本当のことを明らかにしたことがクーデターというのはおかしい。一公務員がビデオを公開したくらいで、政府がひっくり返るとか右往左往するのはどうかと思う」。
当事国中国のメディアからも質問が飛んだ。記者クラブ主催の記者会見ではありえないことだ。香港フェニックスTVの李記者は一色氏の本音を引き出した―「(尖閣沖)事件から5か月が経ったが中国へのメッセージがあれば教えて下さい」
一色氏は次のように答えた。「中国が真相を明らかにしたいのであれば日本にプレッシャーをかけて『ビデオを全部見せるように』要求して下さい。レアアースを禁輸するとか言って」。
一色氏の答えは、日中の力関係と官邸の対中外交姿勢を象徴している。映像流出事件はこうした環境下で起きた。一色氏のこのコメントに事件が凝縮されているように思えた。
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