
予断を許さない福島原発の厳しい状況に技術者(手前)の目つきは険しくなる。隣は武藤副社長。(22日夕、東京電力本店。写真:筆者撮影)
武藤栄・東京電力副社長の記者会見は、聞けば聞くほど意味が分からなくなる。「言語不明瞭・意味不明」だ。
23日午後4時20分頃、MOX燃料を使用する3号機から黒煙が上がっているのが確認された。
3号機をめぐっては21日、原子炉格納容器内の圧力が高まったため、容器内の気体を外に排出するドライベントを一時検討したほどだ。MOX燃料を使う3号機でドライベントに踏み切ればプルトニウムを含んだ放射性物質を高濃度で大気中にまき散らすことになる。ドライベントは「格納容器の自殺」とも言われている。
一方で「格納容器に亀裂が入っているのではないか」と指摘する専門家もいる。
23日夕方の記者会見で筆者は「格納容器の亀裂」と「ドライベント」について武藤栄副社長に質問した。
「格納容器すべてを点検できるわけではないが、亀裂はない」
(この辺が日本語として意味不明だ)
「すべてを点検できるわけではないのに、どうして亀裂はないと言い切れるのですか?」
「格納器の圧力が減少しているからだ」
「ドライベントをしていないと断言できますか?」
「今のところドライベントを行う段階ではない」
3号機は対応を誤ると大惨事につながりかねないプルサーマル稼働機だ。用心し過ぎることはない。筆者は“再び事故隠しが行われないように”との思いから、最悪の事態を想定した質問をしたのである。
NPJの日隅一雄氏は「1号機の容器内の温度はいくらなのか?」を聞いた。格納容器内の圧力が320キロパスカルにまで上がっているからだ。
だが武藤副社長は「大事なのは圧力だ」などとして温度には一切答えなかった。
「何か隠したいことでもあるのですか?数字を言えないなんて可笑しいですよ?」と筆者も追及したが、武藤副社長は「大事なのは圧力」の一点張りだった。
燃料棒がムキ出しになり温度が異常に上がっているのではないか、とも勘繰りたくもなる。格納容器の設計に携わったある研究者は「温度が大事だ」と話す。
23日から副社長の記者会見で質問する記者は「社名」と「氏名」を名乗らなければならなくなった。
東電側はどの社の何という記者がどういう質問をしたかを把握できる。記者クラブメディアにとっては脅威である。東電に不利になるような質問をすれば広告を減らされる恐れがあるからだ。
23日の記者会見でうるさいほど追及したのはフリーランスと雑誌、専門誌などの記者だけだった。
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田中龍作の取材活動は読者に支えられています。
なかなか鋭い視点と当たり前の行為。
記者クラブ側が、どうして「呪縛」になっているかがわかる。単純に広告主側にたって、読者側にたっていないからだ。
だから、日本における新聞とは広告宣伝媒体。
読者でもっている経営ではなく、広告主でもっている経営である事の、何よりの証明ですね。
つまり、記者クラブを改革するのには、広告主を改善するか?それとも収益構造を改革するしかない。記者クラブが劣化しているのではないのでは?
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東京電力 適時開示資料「平成22年3月期決算短信」より
取締役副社長候補者 武藤 栄(むとう さかえ)
生年月日 昭和25年6月28日生
出身地 東京都
略歴
昭和49年 3月 東京大学工学部卒業
49年 4月 東京電力株式会社入社
56年 6月 カリフォルニア大学バークレー校工学部修士課程終了
平成 4年 9月 同社原子力発電部原子力技術課長
6年 7月 福島第一原子力発電所技術部長
9年 7月 原子力計画部(原子力企画担当)(副部長)
12年 6月 原子力計画部(原子力企画担当)
13年 6月 原子力計画部電気事業連合会事務局派遣
16年 6月 原子燃料サイクル部長
17年 6月 執行役員原子力・立地本部副本部長
20年 6月 常務取締役原子力・立地本部副本部長