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2010年12月31日

スカイツリーの光と影 〜派遣が壊す山谷の雇用〜

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スカイツリーの威容と炊き出しを待つ山谷の路上生活者。(31日、墨田公園。写真:筆者撮影)


 「半分までの高さに届いた」「最寄り駅の名称を『業平橋』から『スカイツリー駅』に改名した」・・・東京スカイツリーをめぐる新聞・テレビの報道はオメデタイものばかりだ。各社とも完成した際の広告を当て込んで批判めいたことは書かない。
 
 マスコミ報道とは裏腹にスカイツリーのお膝元の山谷一帯からは怨嗟の声もあがる。

 スカイツリーの先代にあたる東京タワー建設の際は山谷から毎朝、大勢の日雇い労働者が港区芝の工事現場に出かけて行った。山谷は活気に溢れた。ところがスカイツリーの場合、全く地元山谷の雇用と結びついていない。

 ゼネコンが4〜5次下請け会社を使うからである。そこで働く労働者は請負の形をとっているが、実際は発注元の指揮命令で動いているようだ。事実上の派遣労働との指摘もある。

 かつて山谷の労働者たちは手配師から仕事の斡旋を受けていた。良きにつけ悪しきにつけ仕事にありつけていた。

 だが派遣会社が雨後の竹ノ子のように登場すると、下請けの建設会社はコストの安い派遣会社に発注するようになった。手配師は役目を奪われてしまったのである。同時に山谷の労働者たちも仕事を失った。元山谷争議団幹部の一人は「手配師のシステムは壊れた」と言い切る。

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スカイツリーはこの倍の高さになる。だが山谷の労働者に仕事は回ってこない。(31日、墨田公園。写真:筆者撮影)


 大晦日の墨田公園を訪ねた。100人を超す路上生活者(ホームレス)や労働者のなかに炊き出しを待つ一人の男性(63歳)がいた。建設現場で働く鳶(とび)職人だった。男性は6月から仕事がなくなり、雇い主が失業保険にも入っていなかったので、すぐに路上に弾き出された。

 「電話をかけて年齢を言うとすぐに断られる。仕事をしようにもできないよ。生きていけないねえ」。男性は淡々と語った。人生を諦めているようにも取れた。

 筆者はスカイツリーを間近に見る感想を尋ねた。

 「良くないねえ。第一色が良くない」。男性は言いつつもツリーの建設現場での鳶の作業を得々と語った。目を輝かせながら。働く気力も体力も十分あるようだ。

 働き盛りの世代は派遣の低賃金労働で貧しい生活を強いられ、熟練労働者には仕事さえ回ってこない。こんな国に将来はない。


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2010年11月24日

東大の世論調査を疑え〜企業丸抱えのイカサマ〜 

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ユニオンのメンバーは「国立大学の研究室が派遣会社から寄付金をもらい業界の意向に沿った世論調査を行った」と批判した。(24日、東大赤門前。写真:筆者撮影)


 【ハケンという蟻地獄】

 “東大”に日本人は弱い。「東大が言ってるんだから」と信じがちだ。新聞記者も「東大●●研究室によると」のクレジットで書けるので、あまり迷わずに記事にする。

 ところが眉に唾したくなるような世論調査結果が先月、東大のある研究室から発表された。「派遣社員の55%が製造業への派遣禁止に反対している」とする世論調査結果だ。

 派遣切りに怯えながら一日中働いても貯金もできない製造業への派遣は不安定雇用の典型だ。このため、製造業への派遣のうち需要がある時だけ雇用関係を結ぶ登録型派遣の禁止は「労働者派遣法・改正法案」の目玉のひとつとなった。

 派遣ユニオンなどは派遣労働者の総意としてこの改正案に賛成した。「派遣はなくなった方がいいんですよ」と目を潤ませて話した労働者の顔が忘れられない。にもかかわらず東大の世論調査では「半分以上が『製造業への派遣禁止』に反対している」のである。

 摩訶不思議な世論調査の種あかしをしよう。調査を行ったのは東大社会科学研究所「人材フォーラム」。人材派遣会社大手のスタッフ・サービスから奨学寄付金をもらっていたことを自らのホームページで公にしている。

 しかも調査は派遣会社の業界団体である日本生産技能労務協会の会員企業を通じて行った、というのだ。24日、本郷キャンパスで開かれた同フォーラムのワークショップで佐藤博樹教授がにべもなく明かした。

 派遣会社からお金をもらって、実際の調査は派遣会社が行う。アンケートの調査対象は派遣会社に登録している労働者たちだ。彼らは「派遣に反対」などと答えられる境遇にない。業界の意向に沿った調査結果が出るような仕掛けが2重3重に施されているのである。

 筆者はワークショップに潜り込んだ。参加者のほとんどは派遣業界の人々だ。「録音も撮影も禁止だからね」。佐藤教授は釘を刺すように言った。録音も撮影もできないワークショップなんて聞いたこともない。

 「派遣禁止に反対」へ誘導する設問

 アンケートの設問自体が派遣業者に都合の良いように作られている―
「もし今後、労働者派遣法が改正されて製造業務で派遣社員として働くことができなくなったとしたら、あなたが失業する可能性はどの程度あると思いますか?」

 派遣法改正案が禁じているのは、需要がある時だけ雇われる「登録型派遣」だけだ。「常用型派遣」はこれまで通りの存続を認めているのである。ところが、設問は「派遣法が改正されるとまったく仕事がなくなる」ということを前提にしているのである。クイズでいう“引っ掛け”だ。

 そもそも製造業への派遣解禁がなければ労働者は派遣切りに遭うこともなく、直接雇用なので収入も相当に多かったのである。

 「明らかな誘導ではないだろうか?」筆者は佐藤教授に質した。佐藤教授は「質問の意味が分からない」「製造業への派遣解禁が悪いということ?」などとして答えてはくれなかった。

 主催者から承諾を得て参加した新聞労連の田中伸武・副委員長は 「(アンケート調査の)生の数字を教えて下さい」と求めた。佐藤教授は「後でネット上に公開する」と答えたきりだった。

 この日、派遣労働者やユニオンのメンバーは赤門前でアピールを行った。マイクを握った30代の女性は、東大社研「人材フォーラム」に奨学寄付金を提供していたスタッフ・サービスに登録する派遣労働者だ。

 「私はスタッフ・サービスから●●社(神奈川県内の企業)に派遣され、そこで3年以上働いている。●●社から直接雇用の提案があったが、スタッフ・サービスから『あなたは金の卵だ』と言われて、直接雇用の話を潰された。スタッフ・サービスが私たちから絞り取ったカネで寄附を受けている、あなたたち(人材フォーラム)の世論調査は信用できません」。

 女性の震えた声が日本の最高学府に向かって響いた。


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2010年10月25日

「一刻も早く派遣法の改正を」 国会に要請

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「派遣法の改正を急げ」。全国各地から駆けつけた非正規労働者がシュプレヒコールをあげた。(25日、国会前。写真:筆者撮影)


 【ハケンという蟻地獄】 
 大量の労働者が職と住まいを失った「派遣切り」から間もなく2年が経つ。民主党は労働者派遣法の抜本改正を掲げて政権交代したものの内紛や参院選の敗北で大きくもたついたため、同法の改正案は宙吊りのままだ。

 この間、派遣労働者を取り巻く労働条件はさらに悪化した。業界寄りの厚労省の調査でさえ賃金は下がり、細切れ雇用はさらに短期化している。

 改正案は「登録型派遣」「製造業への派遣」「日雇い派遣」の原則禁止を3本柱に据えている。いずれも不安定雇用の温床になるからだ。  

 今国会で派遣法の改正が見送られたら、「派遣切り」の惨禍が繰り返される恐れが十分ある。記者の質問の意味さえ分からないほどの経済オンチが首相を務め、景気は悪化する一方だからだ。

 “もう待てない” 危機感を抱く全国各地の非正規労働者ら約200人が25日、国会に集結した。

 「派遣労働は不安定雇用を創り出してきた」「国会は派遣労働者の声を聞け」「今国会での派遣法改正を急げ」・・・聳え立つ議事堂に向かってシュプレヒコールの声をあげた。

 ある非正規労働者(練馬区在住=41歳・男性)のアピールは、派遣労働の現状を象徴していた。

 「私は主に引越しの仕事で収入を得ている。派遣を通さずに働いた時は、日給9千円になる。だが、派遣会社が絡んできたら5千5百円を切る。」

 「派遣会社は引越しの仕事を8千円でダンピングしてくるため、運送会社は仕事を派遣会社に発注する。このため日給5千5百円が固定化しつつある。(毎日仕事があるわけではないので)食費などを引くとネットカフェにも泊まれない」。男性は時折声を詰まらせながら窮状を訴えた。
   
 最後に「一刻も早く派遣法の改正をお願いします」。痛切な叫びにも聞こえた。

 この後、ユニオンの代表たちは厚労委員会に所属する議員の事務所を回って「労働者派遣法の抜本改正を求める要請書」を手渡した。

 派遣法の改正は、参院で野党が過半数を占めていることから成立は微妙な情勢だ。厚労行政に深く関わる複数の議員は「(学会員が多い)中小・零細企業に配慮するように修正を加えて、公明党を上手に抱き込み成立を目指す」と話す。


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posted by 田中龍作 at 21:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 派遣 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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