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2009年04月13日

スリランカで人道上の危機―少数民族せん滅の恐れも

 「インド亜大陸の涙のしずく」と言われるスリランカ。北海道より一回り小さい島国に約2000万人が暮らす。日本は最大のODA供与国なのだが、スリランカで人道上の危機が起きていることはあまり報道されていない。

 全人口の70%強を占める仏教徒のシンハラ人と少数民族(全人口の20%弱)でヒンズー教徒のタミル人との間で、1983年から続く内戦で6万人が死亡、約100万人が国内外の難民となった。ノルウェーの仲介で2002年に一時停戦したが、05年にタカ派のマヒンダ・ラージャパクサ大統領が就任すると内戦は再燃した。

タミル・タイガー支配地域に向かう政府軍
タミル・タイガー支配地域に向かう政府軍(写真:いずれもスリランカ北部で筆者撮影)


 ラージャパクサ政権は、反政府武装勢力「タミール・イーラム解放の虎(LTTE:通称タミル・タイガー)」が支配する北部、北東部(地図上の濃緑)への攻勢を強めた。20倍以上もの兵力を持ち、火力も圧倒的に勝る政府軍の攻撃は苛烈を極め、現在はタミル・タイガーを北東部ムラティブ県の海岸近くまで追い詰めている。

 政府軍はタミル・タイガー(LTTE)が完全支配し自治政府機能を置いていたキリノッチ県さえも制圧したのである。

 追い詰められたLTTEは民間人10万人を楯にとりジャングルに立てこもっている。命からがら脱出した人によれば「逃亡を図ろうとすればLTTEから射殺される」という。閉じ込めれた人々は、水・食料、医薬品が欠乏する状況に置かれている。体力が低下し、抵抗力もなくなるため病人が大量発生する。

 政府軍はそのエリアを爆撃するのである。LTTE寄りのWebサイト「タミルネット」によれば「政府軍は無差別攻撃を続けており、病院に運ばれることなく死亡する民間人が多数出ている」模様だ(「タミルネット」は海外に編集部を置き発信し続けている)。国連によれば、この『2ヶ月間』で2800人以上が死亡、7000人以上が負傷した。

 国際社会は停戦を呼びかけているが、スリランカ政府は「(停戦は)LTTEの態勢立て直しに手を貸すだけだ」として拒否する姿勢を変えていない。

爆撃された廃墟となった国連機関の病院
爆撃された廃墟となった国連機関の病院


 ガタバヤ・ラージャパクサ国防相は、タカ派で鳴るラージャパクサ大統領の実弟だ。「勝利宣言」をするなどしてハシャグありさまで、少数民族への配慮はかけらも見られない。国際社会が本気で停戦仲介しなければ、タミル民族がせん滅される恐れさえある。

 もし仮にスリランカのタミル人を皆殺しにしても、隣国インドには8000万人ものタミル人がいる。スリランカの全人口の4倍だ。スリランカで政治権力を握るシンハラ人にとって脅威がなくなる訳ではない。国に安定が訪れることはない。

スリランカ。濃い緑がタミル・タイガー支配地域
スリランカ。濃い緑がタミル・タイガー支配地域(地図製作:塩田涼)
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2006年09月08日

スリランカ 女性ゲリラ兵士に聞く(後編)

 事実上内戦に再突入したスリランカでは、政府軍と反政府武装勢力「LTTE:タミル・イーラム解放の虎、通称タミル・タイガー」との攻防が、日増しに激しさを増している。現地からの報道によると、戦略要衝を落とすなどした政府軍が、戦闘を優位に進めているもようだ。先週(9月1日掲載)、前編で紹介したマディーさんら女性ゲリラ兵士たちも、銃を持って前線に立ち政府軍と銃火を交えていることだろう。安否が気になる。

* * *


 大統領など政府要人の殺害を狙う自爆テロは、タミル・タイガーの常套戦術である。パレスチナのハマスよりその歴史は古い。政府側にとって大きな脅威だ。91年にインドのラジブ・ガンジー首相を自爆テロで暗殺したのは、タミル・タイガーの若い女性兵士だった。

 だが、もともとタミル人社会は女性差別の強いヒンズー教徒が主だったはずである。ウーマン・パワーを総動員しなければやっていけないほどゲリラ側が追い詰められているのか。あるいは男女平等主義が女性兵士を惹きつけるのか。マディーさん(25歳)の話を続ける。

「自爆テロ攻撃に赴くチャンスを与えられたら大変ハッピー」と語るマディーさん(バイクの女性。撮影:筆者)
「自爆テロ攻撃に赴くチャンスを与えられたら大変ハッピー」と語るマディーさん(バイクの女性。撮影:筆者)


――自爆テロをどう思いますか?
「もし敵の船が武器・弾薬をジャフナに運び込んできたとする。それらの武器・弾薬は我々タミル人を殺戮するものだから、自爆テロを掛けてただちに粉砕する」

――リーズナブルなわけですね
「もちろん」

敵艦船に自爆テロ攻撃を掛けるのも、タミル・タイガーの得意戦術のひとつである。自爆テロを行うのは「ブラック・タイガー」という専門の部隊だ。

――あなたは「ブラック・タイガー」に入る意志はありますか?
「最高指導者が『必要』と言えば、すべての同志が『ブラック・タイガー』に入る。タミル人の地を解放するという夢をすべての同志が持っているから」

――自爆テロを命じられたら赴きますか?
「はい。もしチャンスを与えられれば大変ハッピー。喜んで行く。
敵の資産を破壊できるのだから。躊躇なく(自爆テロ攻撃)に行く」

――残された家族が悲しむとは思いませんか?
「悲しむだろうが、一方で家族にとっては大変名誉なことでもある。息子や娘がタミルの地を解放するために犠牲になったのだから」

――スリランカのタミル人差別をどう思いますか?
「我々タミル人は毎年、多くの場所で土地を追われている。我々の地には十分な施設がない。経済封鎖も行われていて、薬もろくにない。シンハラ政府に『スリランカ北部と北東部を我々タミル人に下さい』と頼んでいる。これが我々の基本的な要求だ」

「ジャフナの悲惨な状況を見ればわかるように、我々の妹は(チェックポイントの存在で)自由に学校に行けない。非常にたくさんのチェックポイントがある。セクハラがある。行方不明になった子も多い。我々タミルの地で、だ。私たちはコロンボや南部地方に行くつもりはない。我々はシンハラ政府に『私たちの土地をくれ』と頼んでいるだけだ」

「我々は自由に生きるべきだ。それがシンハラ政府と22年間戦っている理由だ。我々の祖先は武器を持って戦わなかったから、何の解決も生み出さなかった。」

――独立したいですか?
 「はい。(今、政府が提案している)連邦制の下では我々タミル人は自由に生きることができない。国土がないから悲しい事件が起きる」

死をも恐れぬ決意を語るマディーさんだが、気負いのようなものは感じられなかった。日本でいえばボランティア活動に携わる若い女性が、自然体でインタビューに答えているかのようだった。

最後に、筆者はマディーさんにこんな質問をした。
――内戦が終わって平和が訪れたら、どんな職業に就きたいですか?
「戦争未亡人、戦争孤児が数多くいる。こうした人たちを助ける仕事がしたい」

 カメラを向けると、そこには日本のどこにでもいるような普通のお嬢さんがハニカミながら立っていた。

* * *


 タミル・タイガーの完全支配地域であるキリノッチ県内では、行く先々で女性ゲリラと会った。取材車のタミル人運転手が話しかけると、彼女らは照れることも衒(てら)うこともなく、よくしゃべり、よく笑った。皆くったくなく明るい。

爆弾の破片で右アゴを吹き飛ばされた女性ゲリラ。あまりにもの明るさに気圧されて、名前さえ聞くことができなかった(撮影:筆者)
爆弾の破片で右アゴを吹き飛ばされた女性ゲリラ。あまりにもの明るさに気圧されて、名前さえ聞くことができなかった(撮影:筆者)


 インタビュー取材を終えて帰る途中、幹線道路沿いでまた別の女性ゲリラに出会った。彼女は顔の右下半分がなかった。聞けば、砲弾の破片で吹き飛ばされたとのことだ。20歳をちょっと過ぎた位だろうか。カメラを向けると笑顔でポーズをとってくれた。先ず相手の年齢と名前を聴くのが記者の勤めなのだが、彼女の底抜けの明るさに気圧されて、何も聴くことができなかった。
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2006年09月01日

スリランカ 女性ゲリラ兵士に聞く(前編)

 スリランカの政府軍と反政府武装勢力が事実上の内戦状態に再突入したことは、本欄でこれまでにもお伝えしてきた。スリランカ国内紙はもとより海外紙の紙面にも“Full-Scale War”“Heavy Fighting”の見出しが連日のように躍っている。

 内戦再開の気配が濃くなった4月以降、スリランカ北部、北東部のタミル人地域から脱出した住民は20万人を超えた。ほとんどは戦闘が激化した8月に入ってからの脱出者だ。半月で16万2200人がこの地域を逃れて国内避難民となった。6672人は海峡を越えて親類縁者のいるインド・タミルナド州に渡った(以上UNHCR=国連難民高等弁務官事務所=調べ)。

 スリランカの少数民族であるタミル人(全人口の2割弱)の独立武装組織「LTTE:タミール・イーラム・解放の虎=通称タミル・タイガー」は、多数民族のシンハラ人(全人口の7割強)が握る政府軍と、1983年から熾烈な内戦を続け、ノルウェーの仲介で2002年から一時停戦状態となっていた。

 タミル・タイガーの推定兵力は6千人。同政治局によれば、ちょうど半数が女性兵士だ、という。女性の将軍も2人いる。役割分担も権力配分も男性と全く同等になっているという。

 タミル・タイガーの完全支配地域キリノッチ県で、女性兵士マディーさん(25歳)にインタビューした。「兵士となったいきさつ」「初めて敵を射殺した時の感想」「なぜ自爆テロをするのか」などを淡々と語ってくれた。

「敵は銃を持って我々の地にいる。だから私は撃ち殺した」と語るマディーさん(撮影:筆者)
「敵は銃を持って我々の地にいる。だから私は撃ち殺した」と語るマディーさん(撮影:筆者)


 ――タミル・タイガーに入ったのはいつですか?
 「98年に入隊した。半年間、基礎的な訓練を受けた」

 ――どんな訓練内容でしたか?
「解放理論やタミル民族の歴史などの政治的な勉強、小銃の扱い方も習った」

 ――基礎訓練の後はどんなことを学びましたか?
 「重火器をはじめいろいろな武器の扱い方を学んだ。これ以上は軍事機密なので言えない」

 ――朝起きてからの一日を聞かせてください。
 「毎朝午前4時半に起床し、体操、タミル国旗の掲揚、神への宣誓と続く。夕方は6時に基地に戻り、新聞を読み、テレビを見る」

 ――テレビはどんな番組を見ますか?
 「BBCドキュメンタリー」

 ――BBCを見てヨーロッパの若い女性のファッションに憧れることはありませんか?
「ない。フリーダム(自由)戦士は制服が一番いい」

 ――戦場に初めて出たのはいつですか?
 「98年.政府軍が一時占領(96〜98年)していたキリノッチを、タミル・タイガーは反転攻勢で98年9月取り戻した。そのオペレーションの時です」

 ――初めて戦場に出た時の印象を聞かせてください
「大変幸せだった。タミル民族を解放すべきとだけ感じていたから。我々の地から敵を追い出す機会を得られた。結果、人々は自分たちの土地を持ち、自由に働き自由に生活することができる」

 ――恐さは感じませんでしたか?
 「いいえ。政府軍と戦うことで我々は自由になれると思ったから。政府軍兵士は我々をレイプ、殺害、誘拐するなどしてきた。こうした敵は殺すだけだ、と思っていたので恐くなかった。多くのタミルの人々が戦争の犠牲となり、命を落とした。我々の同志も自由の戦いのために犠牲となる覚悟はある。だから恐くない」

 ――初めて敵を撃った時の感想は?
 「政府軍の兵士も貧しくて家族がいることはわかる。だが彼らは銃を持って我々の地にいる。だから私は彼らを撃ち殺した。我々の地から(敵を)一掃して、タミル民族に土地を与えるために敵を撃った」

 タミル・タイガーは敵に捕まると、ペンダントに入った青酸カリを飲み自殺することで有名だ。軍事機密を守るためだ。マディーさんも「服毒する」とごく自然に答えた。つとに知られるタミル・タイガーの士気の高さを改めて感じさせるものだった。(つづく)

メディア向けなのだろうか。現れた女性ゲリラ兵士たちは、皆スタイルが良く精悍だった(撮影:筆者)
メディア向けなのだろうか。現れた女性ゲリラ兵士たちは、皆スタイルが良く精悍だった(撮影:筆者)
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