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2009年11月25日

米大統領、アフガン3万5千人増派を決定

 
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羊飼いは地雷を踏むことが多い(カブール郊外で。写真=筆者)


 オバマ米大統領は24日、記者会見で「アフガニスタン戦争を終わらせるために数万人規模で増派することを来週、発表する」と明らかにした。発表は来月2日夕(日本時間3日)、国民向けテレビ演説で行う。

 増派の規模は3万2千〜3万5千人(現時点のアフガン駐留米軍は6万8千人)で、来年2月か3月に実施されそうだ。オバマ氏は増派の理由を「アフガニスタン-パキスタン国境(部族地帯)に潜伏するアルカイーダの力を削ぎ落とし、アフガンで活動できなくするため」と説明している。

 本気で言っているとしたら、この大統領は軍事オンチだ。それとも、国防総省から虚偽の報告が上がっているのだろうか。あるいは国防総省が認識を誤っているのか。

 アフガン-パキスタン国境の部族地帯にいたアルカイーダは、米軍の空爆によりパキスタンに流出した。パキスタンでテロ爆破事件が頻発しているのはこのためだ。警察署やホテル、公共施設などが自爆テロの標的とされている。

 オバマ氏は「アフガン戦争を終結させるため」としているが、増派して部族地帯からアルカイーダを追い出しても戦域がパキスタンに広がるだけだ。

 米軍がアフガニスタンから撤退すれば、早晩アルカイーダがパキスタンから攻め上ってくるのは必至だ。米軍にとっての戦争は終結したとしても、アフガンでは新たな内戦が再開されることになる。

 大きな不安材料は『出口戦略』である。これが大統領自身からも安全保障担当のアドバイザーからも未だ語られたことがない。これで「外交と軍事作戦による包括戦略」(オバマ大統領)などと説明されても、国民は首を傾げるだろう。

 増派をめぐっては大統領のお膝元の民主党からも批判が噴出している。「経済再建を台無しにする」との声が最も根強い。

 AP通信の軍事担当記者によれば、アフガン駐留経費は兵1千人につき毎年10億ドル。現在6万8千人だから単純計算すれば毎年680億ドルを費やしていることになる。3万5千人増派すれば、さらに350億ドルを要する。戦費は年に1千億ドルを超えることになるのだ。

 リーマンショックが尾を引き、主力の自動車産業が不振に喘ぐ米国の経済はガタガタだ。失業率は10%に達し、失業者は1千500万人を超える。戦争などしている余裕はない。

 『ヘラルド・トリビューン』紙によれば、民主党のベテラン議員らが、増派に反対して、「戦争税」の導入(2011財政年度から)を検討していることを明らかにした。代表格のオービー議員(ウィスコンシン州選出)は、「納税拒否者の続出により戦費の調達ができなくなり、戦争遂行も不可能になるから」と説明している。

 オバマ大統領の増派決定より8日前、最大の同盟国である英国のブラウン首相は「アフガンからの撤退を促す」演説をしている。

 オバマ氏がよほど明快な出口戦略を示さない限り、現在は成立する可能性が極めて低い「戦争税」が現実味を帯びる。
posted by 田中龍作 at 16:35| Comment(0) | TrackBack(0) | アフガニスタン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月18日

「アフガンからの撤退」〜英首相が同盟国に促す

 
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何気ない日常風景は束の間の平和を物語る(カブール郊外で。写真=筆者撮影)


 「オバマのベトナム戦争」ともいわれる泥沼のアフガン戦争。アメリカの最大の同盟国である英国のブラウン首相が撤退を促す演説をした。

 同首相は16日、ビジネス街で行った演説で「(現在、ISAF=国際治安支援部隊=が担っている)治安維持権限をアフガン政府に移譲していくためのタイムテーブルを設定するNATO会議を来年1月にもイギリスで持ちたい」と述べた。

 首相のの治安権限移譲計画は次のようなものだ―
・幾つかの地域ではすでに移譲の準備ができている。
・一地域、一地域、漸次行っていき、最終的には全土で移譲する。
・上記を実現するためのタイムテーブルを設定し、2010年に開始する。
・ただし(タリバーンが圧倒的に強い)ヘルマンド州のような地区は数年を要する。

 英国内での最新世論調査で70%近くが「撤退を望む」と答えたことが、ブラウン首相の背中を押した。欧州全体を覆う厭戦感も大きい。旧東欧も含めて32カ国もが(ISAF全体では43カ国)、アフガニスタン現地に部隊を送り出しているのである。

 英国はアフガニスタンに9,000人もの兵員を派遣している。米国に次ぐ規模だ。開戦時(2001年)、米軍と共に侵攻した英国が、同盟国に撤退を促したことは、米国のアフガニスタン政策に多大な影響を与える。

 オバマ政権には現地から増派要求が突きつけられているが、上院の反対などもあり、決定が延期されている状態だ。ブラウン首相の事実上の「撤退勧告」により、オバマ大統領が増派を拒否する可能性も高くなってきた。
 
 演説のなかでブラウン首相は「アフガン戦争は『出口なき戦争』ではない。ゴールはある」と述べた。だが、出口戦略は開戦より遥かに難しいとされる。

 1979年、アフガニスタンに侵攻したソ連軍は、山岳戦を得意とするムジャヒディーンの前に苦戦、1万5千人もの死者を出し89年に撤退した。

 80年代後半から出口戦略を考えていたとされるソ連は、4年がかりで兵力16万のアフガン国軍と数千人の秘密警察を養成した。

 だがソ連撤退後、再び内戦の火蓋が切られたのである。ソ連と戦うために結束していた各勢力は、またもや激突したのだった。

 米軍率いるISAFが撤退した後、現在のアフガン国軍がタリバーンに早晩撃破されることは日を見るより明らかだ。タリバーンが主導権を握れば、他勢力が黙ってはいない。こうして内戦の泥沼は繰り返されるのだろう。

 評論家や政治家は「タリバーンも入れた和平構築を…」などとしたり顔で言うが、できっこない。民族間の対立はあまりにも根深いからだ。人々のDNAに組み込まれていると言ってよい。

 アレクサンダー大王も大英帝国もソ連も敗退したアフガニスタンに傀儡政権を作ろうとした米ブッシュ政権が愚かだったと言う他ない。
posted by 田中龍作 at 20:20| Comment(0) | TrackBack(0) | アフガニスタン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月19日

アフガン不正選挙で米軍増派を見合わせ

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街頭の両替商。武装ガードマンが守る(カブール中心部で。写真=筆者)


 8月に実施されたアフガニスタン大統領選挙でカルザイ大統領陣営に大掛かりな不正があったとされる問題が、米軍のアフガン戦略に重大な影響を及ぼしている。AFPによれば複数の米政府関係者は18日、「安定した政権がない状況での米軍増派は無責任だ」と話した。

 米ホワイトハウスのエマニュエル主席大統領補佐官も同日、CNNテレビの番組で「カルザイ政権についての徹底した分析結果が出ることなしに、米軍増派を決定することはできない」と語った。

 現地の最高指揮官であるマクリスタル将軍は兵力4万の増派をオバマ大統領に要求していたが、4万もの大規模増派となれば準備に2ヶ月近くを要することから年内の実施は絶望的だ。

 世界中の汚職を一堂に集めたようなカルザイ政権の下での大統領選挙は実施(8月20日)前から不正が行われるものと見られていた。案の上、不正のオンパレードだった。選挙違反などという生やさしいものではない。

・投票日前々日の8月18日、衆人環視のなかで投票用紙が売られた。また有権者には買収が持ちかけられた。

・当日の8月20日、カルザイとすでに記入された8万票がガズニ州で見つかった。

・9月3日、疑問票が2,000票見つかる。

・9月8日、600箇所の投票所が人目のつかぬ場所に隔離されていた(独立選挙委員会の調査)。(この独立選挙委員会でさえカルザイ陣営に買収されている、との見方がある)

 アフガニスタン政府発表によれば、大統領選挙の得票率は現職のカルザイ氏が55%、アブドラ元外相が28%。国連がバックアップする「選挙不服審査会」は17日、カルザイ氏の得票率は50%を下回る、とする報告書を出した。EU監視団も「カルザイ票の4分の1は疑わしい」としている。

 アフガニスタンの大統領選挙規定では、50%を割れば決戦投票を行わなければならない。米国のクリントン国務長官とフランスのクシュネル外相はカルザイ大統領に対して「決戦投票に応じるように」とプレッシャーをかけている。

 だがカルザイ大統領側は、決戦投票を阻止する構えである。実施を遅らせて人々の身動きがとれなくなる冬季に持ち込むつもりだ。

 アフガニスタンに侵攻したブッシュ政権も、ゴア前副大統領と争った2000年の大統領選挙で不正があったとされており、政権の合法性が疑われてきた。そのブッシュ政権がインストールしたカルザイ政権も同様に不正な手口で政権の座についているのである。

 国の基であるはずの選挙で大掛かりな不正を繰り広げるカルザイ政権。腐敗しきった政権を維持するために米国は反政府武装勢力を軍事力で抑え込んできた。ブッシュ政権ならいざ知らず、もう騙し騙しは効かない。
posted by 田中龍作 at 16:09| Comment(0) | TrackBack(0) | アフガニスタン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする