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2009年06月22日

アフガン 米軍の最重要基地にロケット弾

 アフガニスタンに展開するNATO軍の最重要・戦略要衝であるバグラム米空軍基地に21日、ロケット弾が撃ち込まれ米兵2人が死亡した。米軍にとって同基地が砲撃されたことは深刻な問題だ。

 首都カブールから北東60キロのバグラム基地を筆者は07年11月に訪れた。高さ5〜6メートルのぶ厚いコンクリート壁が数キロに渡ってつづき、要塞さながらだった。米軍は戦闘機の離発着はじめ兵員、物資の輸送などにバグラム基地を欠くことができない。

 だが、アフガニスタンの民には憎しみの象徴でもある。反米感情の最大の源は誤爆だ。それをしでかす戦闘機はすべてバグラム基地から出撃する。

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バグラム米空軍基地・正門入り口。一見、長閑だが自爆テロがしばしば発生する場所だ。


 米軍は「訓練を強化して精度を高める」との改善策を発表したがムダだ。元タリバーン兵などの情報を元に出撃するのだが、その情報がいい加減だったりする。

 誤爆で家族を殺された少年は武装組織に入る。米軍の作戦行動は敵を増やすことになる。アフガニスタンはほぼ全土が、反米・嫌米感情をたぎらせる人民の海となっていると言ってもよい。

 バグラム基地へのロケット砲撃で、タリバーンの犯行声明は今のところ出ていない。どの武装勢力が撃ち込んでもおかしくない状況だ。

 ISAF(アフガニスタン国際治安部隊)のまとめによると、武装勢力による政府施設や米軍基地への襲撃は1日384件も発生している。この地域を管轄する米中央軍のベトレイアス司令官自らが「武装勢力による攻撃は(カブール陥落の01年以降)過去最高の水準に達しており、今度さらに厳しさを増すだろう」と述べ、治安の悪化を認めた。

 バグラム基地が砲撃されたことは、大阪城の本丸に徳川軍の大砲(おおづつ)が撃ち込まれたようなものだ。豊臣家(米軍)に天下(アフガン)を統治する力がないことを象徴している。

 オバマ政権はさらに兵力2万1,000を増派する計画だが、焼け石に水だ。出口戦略を真剣に考えるべきだ。


アフガン戦争とは何だったのか


posted by 田中龍作 at 13:47| Comment(0) | TrackBack(0) | アフガニスタン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月13日

アフガン治安最悪、次に来るシナリオは…

 アフガニスタンの治安情勢は悪化が伝えられるようになって久しいが、タリバン政権崩壊(2001年)後、最悪の状態となっているようだ。中東と中央アジアを管轄するアメリカ中央軍のベトレイアス司令官は11日、ワシントンの民間シンクタンクに「武装勢力による攻撃は01年以降で最高水準に達している。今後(攻撃は)さらに厳しくなる」との見通しを示した。

 武装勢力による襲撃は今年1月から5月まで5万2,222件にも上った(ISAF=アフガニスタン国際治安部隊=まとめ)。昨年同期と比べ50%増という。治安はもともと悪かったが、もう一段、それも急激に悪化したようだ。

 襲撃は1日平均にすると384件にも上る。NATO軍やアフガニスタン政府施設などが毎日384軒も襲われていることになる。無法状態と言っても何ら差し支えない。武装勢力とはタリバンやアルカイーダばかりではない。地方軍閥も絡む。 

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束の間の平和でも子供たちに笑顔があった(07年、カブール市内。写真=筆者撮影)


 米軍当局者は「パキスタン国境にまたがるトライバルエリア(部族地帯)に潜伏する武装勢力が暖冬で動きやすかったため」と苦しい言い訳をした。米軍による部族地帯への激しい空爆は、どう説明するのだろうか。

 部族地帯を掻き回したことにより、タリバンやアルカイーダはパキスタン北部に押し出された格好になっている。警察署や豪華ホテルが爆破テロに遭うなどパキスタン北部までアフガニスタンと似た治安状況になりつつある。
 
 パキスタンは米国にとって南アジアの足場だ。もともと政情不安定なパキスタンを失えば、米国はアフガニスタンに手も足も出せなくなる。アフガニスタンの西はイラン、北はロシア、東は中国。反米国家ばかりがアフガニスタンを取り巻くことになるからだ。

 オバマ大統領は米軍兵力を2万1,000増派する計画だ。ISAF全体の兵力は5万8,390、うち米軍兵力は2万6,215(4月現在)だから、増派の規模がどれだけ大きいか分かる。だがこの地域にいくら大規模増派してモグラ叩きのスピードを上げても、モグラは一向に減らない。むしろ活発さを増す。

 反米国家がユーラシア大陸を東西に貫くようになる前に、オバマ政権はアフガン撤退のシナリオを考えた方が得策だ。

アフガニスタンの大地とともに
伊藤和也遺稿・追悼文集 /ペシャワール会
by ValueCommerce


NHK
posted by 田中龍作 at 00:01| Comment(0) | アフガニスタン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月09日

戦闘激化、パキスタンで大量の避難民

 
 イスラム原理主義勢力タリバーンとパキスタン政府軍の戦闘激化で同国北部から大量の避難民が発生しているようだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によればスワート地区では住民20万人が同地区を逃れ、さらに30万人が脱出を窺っている、という。戦闘激化以前にも55万人が住み慣れた街や村を後にした。

「戦域がアフガンからパキスタンにまで広がった」などとする見方があるが、それは違う。タリバーンが戻って来ただけだ。タリバーンは元々パキスタン北西部の神学校で輩出され、90年代の内戦真っ盛りのアフガンに続々と投入されていった。

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タリバンの路肩爆弾に破壊された米軍車両の残骸(写真:アフガニスタン・バグラム米軍基地近くで筆者撮影)


「カブール陥落」(2001年末)間もないペシャワルで筆者は元タリバン兵という青年に会った。「兄はまだトライバルエリア(部族地帯)にいる」、青年は涼しい顔をして話した。

 「カブール陥落」は、米軍と日本も含めた西側のマスコミの早合点だ。タリバーンはアフガン-パキスタン国境の部族地帯に一旦兵を引いただけなのである。現在のNATO軍の劣勢とタリバーンの攻勢を見れば、改めて言うまでもないことだ。

 「アフガンの安定はパキスタン(部族地帯も含む)の安定から」という米国の勝手な理屈で、パキスタンへの経済支援を強化することになり、4月17日、東京でパキスタン支援国会合が開かれた。翌日、米国のホルブルック・アフガン・パキスタン担当特使が都内で記者会見し、「(参加各国合わせて)年50億ドルの援助表明があった」と誇らしげに語った。

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ホルブルック・アフガン・パキスタン特使(日本外国特派員協会=東京・有楽町)


 
 パキスタンのジャーナリストが特使に質問した。「パキスタンを同盟国というのならなぜ部族地帯を空爆するのか?」

 ホルブルック特使は嫌な顔をし質問には答えなかった。記者会見の後、筆者はそのジャーナリストに話を聞いた。彼が言いたかったことは要約すればこうだ――米国は「50億ドルは空爆の慰謝料」「貧国は、頬を札束でひっぱたけばどうにでもなる」と認識しているのではないだろうか。

 米国の思惑に反して主戦場は、アフガン→部族地帯→パキスタンと確実に東に広がっている。昨年末、ムンバイで起きたテロ事件は、インドまで火の粉が飛んでいることの証だ。核の管理がズサンなこの地域が戦場と化してしまえば、核がテロリストの手に渡るという最悪のシナリオも視野に入れなければならない。
posted by 田中龍作 at 13:48| Comment(0) | アフガニスタン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする