文字サイズ

田中龍作ジャーナルはサイトのアドレスが変わりました。
新サイト最新記事 (http://tanakaryusaku.jp/



2008年08月11日

ロシア−グルジア本格戦争突入 背景にちらつく米国の影

 ロシアとグルジアとの間で軍事緊張が続いていた南オセチアは7日から一気に戦争状態に入った。グルジア軍が南オセチアの中心都市ツヒンバリに侵攻したのに対し、翌8日にロシア軍が戦車を同地に入れた他、グルジア軍の駐留基地を空爆した。

グルジア軍用車両(筆者撮影)
グルジア軍用車両(筆者撮影)


 現地からの情報を総合すると、少なくとも市民1,400人が死亡、南オセチアに住むグルジア人2,400人が難民となって、グルジア本土に脱出した。

 市民の多くはシェルターに避難しているもようだ。国際赤十字によれば、水・食料は不足し、病院は負傷者で溢れている。手術は廊下で行われているという。

 グルジアのシャーカシビリ大統領は9日、「戦争状態に入った」と国民に向けて宣言した。一方、北京オリンピック開会式に出席していたプーチン首相は、南オセチアと国境を接する北オセチア(ロシア領土)に直行、陣頭指揮を執っている。

 シャーカシビリ大統領が「(ロシアは)グルジアを破壊している」と言えば、プーチン首相は「(オセチア市民への)虐殺だ」と返した。

トビリシの米国大使館前
トビリシの米国大使館前


分離独立勢力をロシアが援助

 グルジアと南オセチアは、ソ連崩壊の際に一度内戦となった(1991〜92年)。そもそも南オセチアの人口の3分の2以上はロシア人だ。13世紀にモンゴルの侵攻によりロシアから追いやられて来た民族なのだ。対するグルジア人は3分の1未満。

 内戦を渡りに舟としてロシアは平和維持を口実に部隊を駐留させた。その傍らで分離独立勢力に武器・弾薬などの援助を続けてきた。

 シャーカシビリ大統領が04年、自治州とする提案をしたが、南オセチアは拒否した。ばかりか、06年には「完全独立」に向けた住民投票まで実施した。背景にはロシアの後押しがある。

 ソ連の一共和国にすぎなかった小国グルジアが大国ロシアを向こうに回せるのは、米国のバックアップの存在以外の何ものでもない。シェワルナゼ親露政権を打倒した「バラ革命」(03年)は、米CIAによる脚本・演出というのが定説となっている。シェワルナゼ大統領(当時)を追放し、政権の座に就いたシャーカシビリ現大統領は米国で教育を受けた人物だ。

東西冷戦の再現か

 米国が、アゼルバイジャンと共にグルジアを何としてでも取り込みたい理由は、大きく2つ。ひとつは、中東に次ぐ豊かな埋蔵量を誇るカスピ海油田の石油と天然ガスを地中海に運び出すためだ。「BTCパイプライン(※)」と呼ばれてすでに稼動している。ロシアの領土を1ミリたりとも通過せずに済む。

 もうひとつは米国にとって最も度し難い国の双璧であるイランとロシアの間にクサビを打ち込むためだ。旧ソ連の共和国だったグルジアと東隣のアゼルバイジャンが、そのままロシア陣営だったら、イランとロシアは「陸続き」となる。米国が恐れるイランの核開発などは、進み放題となるだろう。敵陣営を分断するのは軍事の常道でもある。

 対するロシアはそれを阻もうと懸命になる。06年にはグルジアの元治安機関トップをはじめ国会議員、地方議員がロシアの資金援助で国家転覆を図ろうとしたクーデター未遂事件まで起きている。摘発は米CIAの支援を受けたもので、東西冷戦時代を髣髴させた。

 こうした情勢にあるため、在トビリシの米国大使館の警戒は厳重だ。写真撮影など不可能なことは分かっていたので、筆者はカップルを撮影するふりをして米大使館を撮った。わずか2、3カット撮れただけだ。撮影を終え車に戻ると、治安要員が待ち構えていた。最初からマークされていたのだった。

 グルジア内務省は10日、オセチアから部隊を撤退させたと発表した。ロシアは「グルジア軍はまだ駐留している」として否定している。

 冷戦終結から20年近くを経て今なお米露の権益が角逐するこの地域は、常に軍事力を伴った緊張を孕んでいる。

(※)BTCパイプライン Baku(バクー:アゼルバイジャンの首都)→Tbilici(トビリシ:グルジアの首都)→Ceyhan(ジェイハン:トルコの地中海港湾都市)を結ぶパイプライン。
posted by 田中龍作 at 00:00| Comment(0) | グルジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月10日

天然ガス価格の大幅値上げでグルジア脅すロシア

 今年もあと2ヵ月足らずになった。間もなく寒い冬を迎える。もしガス会社に「来年からガス料金を2倍強、引き上げます。ご納得頂けないようであれば、ガスを止めさせて頂きます」と通告されたら、あなたはどうするだろうか?

 ロシアの天然ガス独占企業「ガスプロム」は2日、グルジアへ供給する天然ガスの料金を2007年から2倍強に値上げする、と発表した。これまで1,000m3につき110ドルだったのが、230ドルになる。グルジアは天然ガス需要の100パーセントをロシアに依存する。貧乏国グルジアにしてみれば「そんな金、どこを搾っても出てこないよ」という思いだろう。

ロシアから延びる天然ガスパイプライン(グルジアで、筆者撮影)
ロシアから延びる天然ガスパイプライン(グルジアで、筆者撮影)


 折りも折り。この「ガスプロム」の値上げ発表は、グルジアのベズアシビリ外相の訪ロ中に行われた。外相は、ロシアとの間で続くアブハジアと南オセチアの領土紛争をめぐってロシアのラブロフ外相と会談するため、ロシアを訪れていた。会談の最中に値上げが発表されたというから、これ以上の嫌がらせはない。

親露派逮捕と経済報復の応酬

 2008年のNATO入りを目指して西側への接近にアクセルを踏み込むグルジアと、それに異議を唱えるロシア。両国の関係は今秋から一段と緊張の度を増していた。機先を制したのはグルジアの方だった。親露派の元国家安全相と親露派野党議員など計30人を国家転覆の容疑で逮捕、続いてグルジア駐在のロシア軍将校4人もスパイ容疑で逮捕したのだ(いずれも9月)。

 これに対してロシアはグルジア労働者の強制送還、送金停止、アエロフロートの運航休止などの経済報復に出た。経済をロシアに大きく依存するグルジアには痛手だ。

 両国はもともと、南オセチアとアブハジアの2地域で領土紛争を抱えており、軍事面での対立があった。逮捕劇と経済報復の応酬は不測の事態を招くのでは、との懸念が高まっていた。このため、EUのソラーナ外交・安全保障担当上級代表やOSCE(欧州安全保障機構)のデ・フフト議長といった大物が、事態の沈静化に動いたほどだ。

国際法違反のパイプライン敷設

 1,000m3につき230ドルという価格は、ヨーロッパ諸国への料金(230〜250ドル)と同等だ。2倍強に値上げしておきながら「国際的な市場価格にあわせただけ」とロシアがうそぶいても、それはそれで、表面上は理屈は通る。

 だが、同じCIS国家のウクライナとアルメニアへの供給価格と比較すると、ロシアのいう「国際的な市場価格」という説明は、にわかに怪しくなる。

 オレンジ革命でロシア離れを見せたウクライナに対してロシアは、昨年から今年始めにかけて天然ガス料金の大幅値上げ、あるいは供給停止を唱えて圧力をかけた。だが親露派のヤヌコビッチ首相が就任したこともあり、135ドル/1,000m3という供給価格で10月末に合意に達している。親露政権のアルメニアに至っては、09年まで110ドルという低価格で購入できる。

 グルジアに対する供給価格には、ロシアの政治的な恫喝が込められていることがよく分かる。

 グルジアへのガス料金の値上げ発表の直前、ロシアはグルジアの度肝を抜いた。グルジアからの独立を目指す南オセチアに天然ガスパイプラインを敷設し始めたのだ。

 「南オセチアはグルジアの領土である。(グルジア政府の断りなくパイプラインを敷設するのは)国際法違反である」とグルジア外務省は抗議声明を発表した。

 ロシアと断絶しても、グルジアはアゼルバイジャン、トルコ、イランから天然ガスを購入する途が残されている。だが、ロシアよりも高い価格となる。CISの貧乏国グルジアは、いやでもロシアとお付き合いする他はないのが現実なのだ。

帝政時代にはラスプーチンが、今は「ガスプーチン」が権勢を振るうクレムリン(筆者撮影)
帝政時代にはラスプーチンが、今は「ガスプーチン」が権勢を振るうクレムリン(筆者撮影)


◇ ◇ ◇


本記事は「FINANCIAL TIMES」「New York Times 」「Radio Free Europe」などを参考に執筆しました。
posted by 田中龍作 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | グルジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月06日

グルジア舞台に「新たな東西冷戦」

アブハジアは地図上の左端。黒海沿岸
アブハジアは地図上の左端。黒海沿岸


 グルジアでロシアが糸を引いていると見られる「クーデター計画」が摘発されたことは、先日本欄でリポートした(9月15日掲載「グルジア親露派大物逮捕にチラつくCIAの影」)。元グルジア国家安全相や親露派の活動家など計30人が9月6日、一斉逮捕されたのである。

 それから一ヶ月と経たない9月27日、今度はトビリシ(グルジアの首都)駐在のロシア軍将校4人が、スパイ容疑で逮捕された。グルジア内務省は、将校らがグルジア人に兵器を見せたり、金を交換したりしているところをビデオに撮っており、それを公開した。逮捕され留置場に連行される将校4人の姿は、BBCなどを通じてその映像が世界に流れた。

 当然ロシアは猛反発した。将校4人が逮捕された翌日の28日には、在グルジア大使を召還し、29日にはグルジア在住ロシア人を退避させるための特別機を飛ばした。

 一方で制裁措置を発動した。グルジア人へのビザ発給停止、グルジアへの送金停止などを矢継ぎ早に決めたのである。グルジアは農業以外にさしたる産業がない。経済は出稼ぎ労働者による海外からの送金に大きく依存する。出稼ぎ先はロシアがほとんどだ。ロシアに定住するグルジア人も含めるとその数は150万人にものぼる。送金停止は生命線を断たれるようなものだ。

 プーチン大統領は「逮捕は国家によるテロだ」「外国のスポンサー(米国を指す)と一緒にロシアを挑発した」と最大級の悪口を並べてグルジア政府を非難した。部下の逮捕で激昂したイワノフ国防相にいたっては「グルジアは戦争への道を選んだ」と決めつけた

独立運動に肩入れするロシア

 グルジアはアブハジア(地図参照=黒海沿岸)と南オセチアの独立運動を抱えており、ロシアが独立派武装勢力を支援していることに対して強い反感を抱く。グルジアがソ連から独立する(1991年独立)と見るや、両地域ともグルジアからの独立を主張し始めた。グルジア政府軍と砲火を交えたこともある。

 ロシアはグルジアに対する影響力を確保するねらいから、両地域の独立運動に肩入れしてきた。特にアブハジアには戦闘機を出すなどして後押ししてきた。アブハジアの独立派武装勢力はイスラム教徒だ。ロシアはチェチェンではイスラム教徒を徹底的に弾圧しているにもかかわらずだ。大国のご都合主義が見てとれる。

 グルジアの宗教はグルジア正教徒が8割以上を占めるが、黒海沿岸地域はオスマントルコの影響で国の人口の1割にも満たないイスラム教徒が集中する。キリスト教教会とモスクが数十メートルおきに混在する風景は、この地域の複雑さを物語る(写真=上段=参照)。それを利用してロシアは独立運動を煽った。

 ロシアの肩入れを裏付ける事実も出ている。黒海沿岸の保養地ソチで9月30日、プーチン大統領はアブハジア、南オセチアの独立勢力の指導者と会っていた、というのだ。グルジアのベソアシビリ外相が1日、記者会見で明らかにしたものだ。クレムリンはこれについて否定も肯定もせず、ノーコメントを貫いた。

天然ガス需要期の冬さらに緊張

 シャーカシビリ大統領がアブハジア境を初訪問した日(9月27日)に、ロシア軍将校4人は逮捕された。ロシアの肩入れに対する見事なまでの当てつけではないだろうか。

 一触即発の事態も懸念されるなか、EUを中心に懸命の「和解交渉」が行われた。EUのソラーナ外交・安全保障担当上級代表はシャーカシビリ大統領に電話を入れ「事態をエスカレートさせないようにして解決するように」と促した。ベルギーのデ・フフト外相(OSCE:欧州安全保障協力機構・議長)は2日、グルジアに飛び、逮捕者の解放を促した。

 グルジア政府が2日、4人の逮捕者を解放したことで最悪の事態はとりあえず回避された。だが、ロシアの反発は収まらない。ラブロフ外相は「経済制裁は妥当」としたうえで、今後も続ける方針を示した。モスクワとトビリシを結ぶ「アエロフロート」は10月末まで、運航休止を決めた。

 グルジアは天然ガスの100%をロシアに依存している。親欧米路線を走るシャーカシビリ政権に対してロシアはガス料金の大幅な値上げで揺さぶりをかけている。今年1月にはパイプラインがロシア領内で爆破される事件が起き、ガスは停止。グルジア国民は寒さに震え上がった。グルジア政府は、ロシア治安機関による仕業と見ている。

 東方拡大を目指すNATOとEUは、グルジアの「無事」加盟が試金石となる。ロシアが強硬に反対しているからだ。米国はカスピ海油田の権益と中東政策にからんで、グルジアを何としてでも自陣営に引き付けておかねばならない。
 
 天然ガスの需要が増大する今冬、グルジアをめぐって欧米とロシアとの緊張はさらに高まりそうだ。「あらたな東西冷戦」真っ盛りと言えよう。

黒海沿岸地域はキリスト教教会とイスラム教礼拝所が数十メートルおきに混在し、緊張する(撮影:筆者)
黒海沿岸地域はキリスト教教会とイスラム教礼拝所が数十メートルおきに混在し、緊張する(撮影:筆者)


◇ ◇ ◇


本記事は「Reuters」「New York Times」「Jane’s Defense Weekly」「Radio Free Europe」「BBC」「グルジア国内紙」などを参考に執筆しました。
posted by 田中龍作 at 00:00| Comment(0) | グルジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。