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2010年11月14日

スカイツリーの光と影 〜空き缶デモ〜

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空き缶デモ。スカイツリーは人々を押しつぶすかのように聳える。(14日夕、墨田区押上。写真:筆者撮影)


 東京タワー2本分の高さとなる東京スカイツリー。来年12月の完成を目指して工事は着々と進んでおり、浅草あたりからでも威容が目に飛び込んでくる。

 お膝元の東京・墨田区では不況のなか千載一遇のチャンスとばかりに官民あげて観光開発や都市再開発にまい進している。いままで場末扱いの辛酸を舐めてきた墨田区は、スカイツリーをジャンピングボードにしようと躍起だ。

 開発につきものなのが、野宿者の排除や老朽化した長屋の取り壊しだ。墨田区も例外ではないようで、「空き缶持ち去り禁止条例」を10月1日から施行した。条例は区の指定業者以外が集荷場から空き缶を持ち去った場合は20万円以下の罰金に処すというものだ。

 空き缶を拾い集めてリサイクル業者に売り生活費の足しにしていた野宿者は糧を奪われることになる。兵糧攻めによる野宿者の追い出しともとれる。実際、空き缶を集めているところを墨田区役所の職員からビデオ撮影された野宿者もいる。一定の周知期間を経た後、条例違反で検挙するつもりだろうか。

 14日、野宿者や支援者たちが条例に反対するデモを行った。「俺たちの仕事を奪うな」、「空き缶は俺たちのメシだ」・・・参加者たちはシュプレヒコールをあげながら浅草からスカイツリーの真下までの道のりを歩いた。ムシロ旗を掲げ、空き缶を満載した台車を押しながら。

 参加者の一人で路上生活を経験したことのある男性(30代)は“空き缶集め”で食いつないだ。「当時(2008年)は中国でオリンピックがあったので1s=150円から160円で売れた。それでも一晩拾い集めて1,000円になるか、ならないかだった」と語る。

 今では1s=100円まで値段が下がっている。そのうえ条例で禁止されるようなことになれば、死活問題となる。

 「皆、食べるので必死だからね」。男性は言葉を吐き出した。

 京都市議会でも「空き缶持ち去り禁止条例」が可決されたが、野宿者の支援充実を求める付帯決議がつけられている。

 話が飛躍するようだが、北京オリンピックを思い出す。中国政府は競技場周辺や北京の表通りから路上生活者を追い出したのである。墨田区の人権感覚は中国並みなのだろうか。

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2010年09月24日

「ナイキ・パーク」〜公共の場奪う市場原理主義


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警察隊はなだれ込むとわずか10分で、ホームレス支援組織や市民活動家を排除した。(24日午後2時、宮下公園ゲート前=渋谷区=写真:筆者撮影)


 「ナイキ・パークにするな」「人間が生活する権利を奪うな」……ホームレス支援組織や市民活動家のシュプレヒコールが響くなか、宮下公園で渋谷区による行政代執行が行われた。

 渋谷区はスポーツメーカー「ナイキ」に1年につき1700万円の契約で宮下公園の命名権(ネーミング・ライツ)を売り渡し、ナイキは自らの企業名を冠した公園でスケートボード場などの遊技施設を運営する。公共の場を一企業の営業のために供してよいのかという疑問の声も多い。

 公園整備を名目に野宿者が排除されることからホームレス支援組織などが反対してきた。24日は行政代執行が行われることをwebなどで知った市民活動家が関西などから駆けつけた。工事用の車両を入れさせまいと、公園ゲート前に30人が座り込んだ。

 区の土木部長が代執行の宣言文を読み上げたのが午前10時。支援組織、市民活動家と警察隊とのニラミ合いが暫く続いた。そして座り込みがちょうど4時間目に差しかかった時だった。約30人の警察隊がゲート前になだれ込んだ。

 支援組織や市民活動家は懸命の抵抗を試みたが、警察隊の前には無力だった。いとも簡単に座り込みは引き剥がされ、公園から一区画離れた交差点まで持って行かれた。わずか10分の出来事だった。

 ナイキはかつてウィーンやトロントでも公園の「ナイキ・パーク」化を試みたが、地元住民の反対で計画中止に追い込まれている。

 ナイキは、「ナイキ・パーク」で洗練されたイメージを現地の消費者に摺り込む裏で、世界の低賃金労働をネットワーク化してきた。賃金が上がれば安く働かせることができる他国に工場を移す手法で利益をあげてきたのだ。まともな雇用はそこにはない。

 あるのは、貧しき者はいつまでも貧しく、ほんの一握りの富める者がさらに富むという構図だ。欧州や北米がノーを突きつけた市場原理主義の一端を日本は受け入れたのである。


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2010年09月23日

「ナイキ化」 宮下公園からホームレス排除


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ホームレス支援者が公園の「ナイキ化」に反対して抗議活動を行った。(23日、宮下公園入り口=渋谷区=写真:筆者撮影)


 行政はいつから追い剥ぎになり下がったのだろうか。渋谷区は24日、公園整備を名目に宮下公園から野宿者(ホームレス)を排除する行政代執行を行う予定だ。宮下公園には40人近くの野宿者が暮らしていたが、そのうち30人は渋谷区公園課によってすでに“転居”させられている。

 残る野宿者を追い出した後はスポーツメーカー 「ナイキ」が、スケートボード場などの遊技施設を建設する。遊技場収入の何割かが渋谷区に入る仕組みだ。自治体が公共施設を有効活用して収益を上げるのは、ひとつの方策である。財政難の折、役所にしては気の利いたアイデアだ。

 だが、ちょっと待ってほしい。これが成功例となって他の自治体が真似るようになったら、あちこちの公園から野宿者が追い出されるようになりはしないだろうか。小泉改革と不況のダブルパンチにより財政難にあえぐ自治体はノドから手が出るほどカネが欲しいはずだ。

 筆者は野宿者をこの10年間取材してきた。路上に弾き出された原因の大半はカネ絡みだ。そのほとんどは借金の取立てから逃れてきた人たちだ。ところが労働者を部品同然に扱う「派遣」が定着するようになってからは、新たな「層」が加わるようになった。

 ついこの間まで非正規労働者だった人々である。不況で職を失う→「派遣労働者」に転じるが、いとも簡単に切られる→アパートの家賃やネットカフェの宿泊費を払えなくなる→路上に弾き出される。30代のホームレス(野宿者)が増えているのは、こうした事情からだ。

 ホームレスになりたての頃はダンボールを敷いてビルの地下などに寝る。公園で青テントを張るまでには普通2年も3年もかかる。大変な苦労がいるのだ。ある野宿者が「青テントに住めるようになった時は、これで雨に打たれずに済むと思いホッとした」と話してくれたことがある

 景気がまともだった頃、野宿者は数えるほどしかいなかった。現在、2万人とも3万人とも言われる(内閣府参与の湯浅誠氏によれば「実際の野宿者は厚労省の発表より多い」)野宿者は明らかに不況の犠牲者だ。

 公園はそんな彼らがやっとの思いでたどり着いたオアシスである。そこから追い出すのが行政本来の仕事ではないはずだ。


参考記事
●ホームレス「墨田の聖地」譲らず
http://www.news.janjan.jp/living/0612/0611305620/1.php

posted by 田中龍作 at 22:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ホームレス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする