文字サイズ

田中龍作ジャーナルはサイトのアドレスが変わりました。
新サイト最新記事 (http://tanakaryusaku.jp/



2009年12月11日

オバマ大統領のノーベル平和賞 期待料で十分

 バラク・オバマ米大統領は10日、ノルウェー・オスロ市庁舎で開かれたノーベル平和賞授与式に出席、受賞演説で「貧困と残虐の虜囚になってはならない」などと述べ、米国の好戦的な一極主義が世界にもたらした惨禍を遠回しに詫びた。

 わずか9日前に「アフガニスタン駐留米軍の3万人増派」を正式発表したオバマ大統領のノーベル平和賞受賞に懐疑的な世論は国際社会に少なくない。授与式当日、ノルウエー市内では反戦運動家らが抗議のデモを繰り広げた。

 懐疑や批判の声を意識してか、オバマ大統領は冒頭挨拶に続いて「受賞にあたって大きな問題は、私がイラク戦争とアフガン戦争を戦う米軍の最高指揮官であることだ」と率直に語った。「若い米兵を遠き地に派遣しているのは私の責任だ。彼らは殺したり殺されたりしている」とも述べた。

 オバマ大統領のノーベル平和賞受賞は、ノルウェー・ノーベル委員会も認めるように「(平和を)呼ぶ動きとなる」ことへの期待であるのだ。筆者もそれで十分だと思う。

 ブッシュ前政権の8年間は単独行動主義で環境を疎かにしてきた。CO2の排出量を規制する「京都議定書」には調印せず、利権最優先で戦争を起こすなどした。イラク戦争もアフガニスタン戦争も前政権の負の遺産である。オバマ大統領は反省の上に立ち、これらを全面的に改めようというのだ。

 特にイラク、アフガンの両戦争で敵陣営だったイスラム世界との融和を掲げていることは評価に値する。

 ブッシュ前大統領が悪の枢軸と呼んだイランのモッタキ外相は「好戦的な一国主義(ブッシュ前政権を指す)を変えるのなら反対する理由はない」と認める。パレスチナ自治政府のサイーブ・エレカット交渉相も「オバマ氏であれば、イスエラエルを占領地から撤退させることができるものと期待している」と賞賛する。

 事実オバマ氏は大統領に就任すると間もなくイスラエルのネタニヤフ首相に「占領地への入植凍結」を呼びかけている。

 PLOのアラファト議長は、「土地と和平の交換」と言われたオスロ合意をイスラエルとの間で締結したことでノーベル平和賞を受賞した(1994年)。韓国の金大中大統領は、金正日総書記との南北首脳会談で受賞している(2000年)。両者も受賞当時、パレスチナ和平と南北統一への期待料といわれた。

 オバマ氏が提唱する「環境政策」「多極主義」「イスラム世界との融和」は、ブッシュ前政権の8年間で悉く破壊された。「核」は拡散し世界は危うい状態になった。

 いずれも国際社会が全力を挙げて回復改善しなければならない問題だ。オバマ氏のノーベル平和賞受賞を機に世界がいち早くそれに気づき動けば、期待料でおつりが来る。
posted by 田中龍作 at 04:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 平和 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月04日

ブッシュ来日、靴は飛ばなかった

 
写真
参加者たちは「ブッシュを逮捕せよ」「靴を投げよう」と訴えた(後楽園ドーム前で。写真=筆者撮影)


 世界を混乱に陥れた史上最悪の米国大統領との評価があるジョージ・W・ブッシュが3日、来日した。東京・後楽園ドームの日本シリーズ第3戦で始球式のマウンドに立ち、盟友の小泉元首相と野球観戦した。

 ありもしない大量破壊兵器の存在をでっち上げイラクに軍事侵攻したブッシュ政権を、小泉は真っ先駆けて支持した政治家だ。アフガニスタンに侵攻すると開戦から1ヶ月も経たないうちに「対テロ特措法」を成立させ、自衛隊をインド洋上の給油に派遣した。

 イラクは石油欲しさで、アフガンは中央アジアからの天然ガスパイプラインを敷設するためだった。イラクとアフガンを陥れた暁には、米国にとって最も度し難い国であるイランを挟撃しようなどという「妄想」さえあった。

 邪悪な利己心が引き起こしたイラクとアフガン侵攻により犠牲となった市民は数十万人にものぼる。

 ブッシュは、無辜の非戦闘員を大量に殺害した罪(人道に対する罪)でオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)に起訴されて当然の身なのだ。小泉は、「人道に対する罪の幇助」にあたる。

 にも関わらず2人とも引退後、優雅な余生を楽しんでいる。全く懲りていない様子だ。モラルの低さは、麻薬取締法違反で有罪判決を受けた俳優の押尾学以下だ。

 戦争だけではない。ブッシュ政権を支えていた金融界が導入した市場原理主義はパンクし、あっという間に世界経済を混迷の淵に突き落とした。小泉はここでもブッシュに協力した。日本の超低金利を利用した「円キャリトレード」は、市場原理主義の破綻の引き金となった「サブプライム・ローン」の原資に使われたのである。2人の「共犯関係」は経済でもいかんなく発揮された。

 夕闇迫る東京・水道橋。後楽園ドームへ向かう通路の入り口では、反戦平和活動家、非正規労働者らが「ブッシュ来日」に反対するアピールを行った。

 「戦犯ブッシュを逮捕しろ」をスローガンに、ブッシュと小泉の戦争犯罪を訴えた。イラク人記者にあやかって「靴投げ」を真似る参加者もいた。中心メンバーは、昨年秋に行われた「麻生邸見学ツアー」と重なる。公務執行妨害罪をこじつけられて不当逮捕された28歳の男性の姿も後楽園ドーム前にあった。

 主催者の一人は「ブッシュと小泉に責任を取らせたい」と語る。ルワンダやユーゴスラビアの政治指導者は、戦犯法廷に起訴される。だが米国の大統領や日本の首相だと罪には問われない。せめて球宴の観客のうち一人でも、靴を投げる勇気があればよかったのだが。<敬称略>
posted by 田中龍作 at 01:13| Comment(0) | TrackBack(1) | 平和 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月10日

ノーベル平和賞 オバマの対イスラエル、アフガン政策


写真
ソ連軍戦車の残骸。米国もソ連と同じ轍を踏んでいる(ジャララバード街道で。写真=筆者撮影)


 今年のノーベル平和賞がオバマ米大統領に贈られることに水を差すつもりも茶化す気持ちもない。イラン、パキスタン、北朝鮮など国際社会のコントロールが効かない国々の核開発が周辺諸国に脅威を与えていることを考えれば、一日も早い「核なき世界」の到来が待たれる。

 世界のタブーに挑戦するオバマ大統領のスピリットには頭が下がるが、拭い去れない疑念もある。ひとつは、イスラエルに核放棄を飲ませることができるか、ということだ。八方敵に囲まれたイスラエルに核を放棄させるのは至難の業だ。

 一方イスラエルが核を保有している限りイランは核開発を続ける。ノドから手が出るほど外貨が欲しい北朝鮮はオイルマネーで潤うイランに技術援助する。イランの核開発が一定の域を超えれば(すでに超えているとの分析もある)、イスラエルは迷うことなくイランの核施設を爆撃するだろう。

 実際、1981年には完成間近と見られていたイラクのオシラク原発を空爆で破壊している。精密誘導弾などない時代に空軍パイロットの熟練した技だけで地下核施設を破壊したのである。いったん地中に潜ってその後爆発する爆弾(今で言うバンカーバスター)が世界で初めて実戦使用されたのだった。
 
 イランはイスラエル軍の精強さを知っているから、より強硬になる→核開発、核運搬手段としてのミサイルの開発をさらに進める→イスラエルはイランの核施設攻撃に向けて着々と準備を進める→恐怖の悪循環だ。

 もうひとつの疑念は米国の対アフガニスタン戦略である。タリバーンのスポークスマン、ムジャヒード氏は「オバマ大統領はアフガニスタンを安定させ平和に導くための一歩さえ踏み出していない。今年のノーベル平和賞は不当だ」と非難する声明を発表した。

 アフガニスタンは突付いてはいけない国だった。タリバーンの攻勢は、首都カブールさえも陥れそうな勢いだ。世界最強の米軍を中心に42カ国の軍隊(兵力6万7700)を持ってしても押さえきれないのが、アフガニスタンだ。

 アフガニスタンだけが不穏であるならまだしも、米軍がパキスタンとの国境の部族地帯にまで空爆を強化したため、パキスタンにまで戦域が拡がってしまった。軍事政権で元来不安定だったパキスタンがさらに物騒になった。警察施設、欧米人が宿泊するホテルなどが爆破テロに遭うありさまだ。

 パキスタン国軍の半分はイスラム原理主義者と云われる。さらに国家内国家とも言われるISI(3軍統合情報部)は、タリバーンを育てた組織である。不安定この上ないパキスタンのズサンな核管理。軍中枢(ISI)と密接不可分の関係にあるタリバーンが核を手中にするのは、あり得ないことではない。

 イスラエルに核を放棄させるのは、オバマ大統領とて不可能だ。太陽を西から昇らせるに等しい。アフガン、パキスタンの安定化も今となっては「覆水盆に返らず」だ。

 オバマ氏に贈られたノーベル平和賞は「期待料」込みであるにしても、あまりに重い。
posted by 田中龍作 at 14:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 平和 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする