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2010年11月23日

就職難 大卒だけが人生じゃない

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警察官の世界は大卒でなくとも出世できる。高卒の警察署長が当たり前の組織だ。(写真と本文は直接関係ありませんん)


 大卒者の就職内定率は57・6%と過去最悪になった(文科省・厚労省調べ)。大雑把にいえば2人に1人しか就職できないことになる。「大学は出たけれど」などという生やさしい言葉では済まないところまで事態は悪化している。

 大卒の就職難が取沙汰される度にある青年を思い出す。身長190センチあまり、肩幅もがっちりした大男だった。「バスケットをしてたんですか?」と聞くと「いいえ柔道です」とバリトンで答えた。武道家らしく腹から声を出しているからだろう。高校時代に関東大会で優勝した経験もあるという。

 彼はスポーツクラブでアルバイトをしていた。年齢は26歳。

「柔道が強かった人は警察に行く(就職する)でしょ?」。

「はい、高校の時、警視庁から『引き』があったんですけど断ったんです」。これが間違いの素だった。

 青年は大学に進んだ。4年後に就職事情はさらに厳しさを増した。収入、身分とも安定した公務員になるのは宝くじに当たるようなものだ。

 大学卒業を控えて警視庁の門を叩いたがダメだった。以後、毎年警察官採用試験を受けているのだが、いつも結果は不採用だ。

 “『引き』があった高校生の時、なぜ警視庁に行かなかったのか” 彼は悔やんでも悔やみきれないようだ。

 親は“大学を出ていた方が警察に入った後、出世が早いから”と考え、本人もそう思ったのか。

 役所や一般の企業で大卒か高卒かの違いは、昇進において大差となって現れることが多い。

 ところが警察の場合、そうではない。全国警察官の95%以上を占めるノンキャリ警察官の世界において、高卒と大卒の違いは、昇進試験の受験資格を得るのが大卒だと高卒より少し早い位のものだ。昇進を決める際には勤務評定(上司からの評価)が試験以上に大きなウェイトを占める。

 結局、大卒で大した仕事をしない警察官よりも、高卒で身を粉にして働いた方が出世するのである。実際、地方の警察に行けば、高卒の所属長(警察署長、本部の課長)が主流を占める。

 スポーツクラブの青年が高卒で警察に入っていたとする。不祥事に巻き込まれることなく、職場の人間関係を大事にし、昇進試験に備えてコツコツ勉強していれば、おそらく機動隊の隊長になれるだろう。機動隊隊長の階級は警察署長と同じ警視だ。人事異動では署長が機動隊隊長になったり、機動隊隊長が署長になったりする。

 警察官にとって署長になることは「サクセスストーリー」そのものである。高校時代、警視庁からの『引き』を断った青年はみすみす「成功」を逃したことになる。

 筆者が尊敬する数少ない教師の一人である中学2年生の時の担任がよく言っていた。「将来、どういう職業につきたいかで学校を決めろ」と。

 「ずっと警察官に憧れていましたから」。青年は眼差しを遠くにやりながら語る。高校の進路指導の先生と柔道部の部長がもう少し世間を知っていたら、青年の人生は違ったものとなっていただろう。


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2010年10月14日

非正規切捨てのKDDI、「国際オペレータ通話」廃止 

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「auを解約しましょう」とauショップの前で呼びかけるKDDIエボルバユニオン。(14日、新宿東口。写真:筆者撮影)

 
 「労働者の切捨て」と「国際化に逆行」。沈みゆく日本を象徴するような出来事が国際電話の窓口で起きている。9月末でKDDIを雇い止めになった国際オペレータたちが14日、新宿でauのボイコットを呼びかけた。

 街宣活動を行ったのは、KDDIの100%出資子会社 であるKDDIエボルバで国際電話オペレータとして働いていた非正規労働者の女性たちだ。彼女たちは正社員と均等の待遇を求めて労働組合(KDDIエボルバユニオン)を結成した。2006年のことだ。

 早速、会社側の組合潰しが始まる。ユニオン幹部を呼びつけ長時間拘束し尋問まがいのことまで行った。国会の院内集会に参加し現場報告をしたユニオンの委員長には、懲戒処分までチラつかせたほどだ。

 08年7月、会社側は合理化の一環として「国際オペレータ通話を2010年3月31日を持って廃止する」と発表する。ユニオンメンバーの職場を無くすというのだ。究極の組合潰しに出たのである。

 国際オペレータ通話が廃止されると緊急時に利用者は著しく不便を生ずる(後段で詳述する)。

 ユニオンは国会議員に呼びかけるなどして国際オペレータ通話の必要性を訴え続けてきた。今年2月には通信事業を所管する総務省の原口一博大臣にも要請した。原口大臣は存続に前向きの見解を示した。国際オペレータ通話の廃止は、国会や霞ヶ関でも看過できない問題として扱われるようになったのである。

 事態を受けて、KDDIは4月1日以降も国際オペレータ通話を継続することにした。ところが束の間だった。9月30日で国際オペレータ通話サービスのほとんどを廃止したのである。総務大臣の交代を見透かすかのようだった。

 国際電話オペレータとして働いていた非正規社員の約50人は全員、同日付けで解雇となった。

  【窓口狭め国益損なう】
 
 国際オペレータ通話の廃止で困るのは、前段で述べたように海外で緊急時が発生した場合だ――

 例えば親族がニューヨークで交通事故に遭ったとする。これまではニューヨークの病院名と住所が分かれば、KDDIのオペレータがつないでくれていた。米国の電話会社に依頼し電話番号を割り出していたのである。国際電話会社同士の「相互援助システム」である。筆者も外国の組織や機関の電話番号を知りたい時、KDDIのオペレータに助けてもらっていた。 

 ところがKDDIは10月1日から、この「相互援助システム」から外れた。「0057」に電話をかけると電話番号を調べてはくれるが、オペレータがインターネットで検索するので、利用者が自分で調べても同じだ。

 外国の相手先の電話番号が割り出せないのは、平時であっても不便だ。「住所、会社、組織、個人の名称は知っているが、電話番号を知らない。でもどうしても電話をかけなければならない。インターネットで検索しても分からない・・・」。これまではKDDIのオペレータに頼んで割り出してもらっていたが、それも不可能になった。

 相互システムなので、外国の利用者が日本の会社や組織の電話番号を割り出してもらうこともできない。

 日本からKDDIを通して利用できていた海外へのコレクトコール・サービスも9月30日で廃止となった。外国の電話会社に直接かけてコレクトコールを頼み、しばらく待たなければならない。外国の電話会社に電話をかけてオぺレータと話しができる日本人が果たしてどれほどいるだろうか。

 「観光立国」などと称するからには海外との窓は大きく開けておく必要がある。にもかかわらず通信の窓口を狭めるのは国益を損なうことになる。KDDIは日本を代表する国際電話会社だからだ。

 国際オペレータ通話の廃止は、労働者の切捨てとセットになっているだけに深刻な問題である。


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2010年06月14日

「郵政非正規社員」の命運分ける参院選


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新旧大臣引継ぎ式。日本郵政で働く「非正規社員の正規化」は亀井氏の肝いりだ【14日、金融庁大臣室で。写真:筆者撮影】


 参議院選挙の結果に、今後の生活設計を左右されそうな青年が6万5千人もいる。日本郵政で働く非正規社員たちである。

 日本郵政グループ全従業員の約半分(47%)を占める非正規社員は20万人。同質の労働に従事しながら年収は正規社員の3分の1だ。「小泉・竹中」の郵政改革で一気に増えた。

 非正規社員の正社員化は亀井静香元郵政相の肝入りで決まり、非正規社員の3分の1にあたる6万5千人をこの秋から3〜4年かけて正社員化することになっている。それに伴うコスト増は200億円を超すといわれ、政界には反対する勢力が少なくない。「郵政改革法案」本体とも連動する。

 正社員による「日本郵政グループ労働組合」の組合員数は22万人余り。組織率は9割を超す。単産としては日本最大の労働組合で民主党支持だ。非正規社員が正社員化されれば、これに5万人を超す組合員が加わることになる。

 かつての全逓(全逓信労働組合)ほどの集票力はないが「郵政労組」から出る票は、家族も含めれば全国で数十万票になる。野党にとっては大きな脅威である。衆院の小選挙区、参院の地方区で競り合っている場合は、当落を分けるほどの票だ。

 小泉改革を未だに信奉する自民党の一部勢力は他の野党を巻き込み、郵政法案とともに、正社員化計画を葬り去ってしまおうと画策する。某元幹事長や某首相経験者が中心となり、公明党やみんなの党に働きかけているという。選挙協力や選挙後の多数派工作に乗らないよう、と呼びかけているようだ。

 国民新党を加えても与党が参議院で過半数を割ることになれば、当然「郵政法案」は消し飛ぶ。「郵政法案」に含まれる項目ではないが、「非正規社員の正社員化」も難しくなる。野党は参院で200億円を超すコスト増について攻撃してくるだろう。

 国民新党を加えて過半数を取れば「郵政法案」も「非正規社員の正規化」も大丈夫だ。
 
 亀井静香前郵政・金融相は14日、退任記者会見で「民主党には(参院選で)頑張ってもらわなければならない。神に祈るような気持ちだ。負けたら大変なことになる」。豪放磊落で鳴る亀井氏のこれほどまでに神妙な表情は見たことがない。

 ただ民主党単独で過半数を取り国民新党を切ることになった場合、事情が変わってくる。非正規社員の正社員化については同党関係者は「あれだけはやる」と言い切る。問題は「郵貯預け入れ限度額」だ。亀井大臣(当時)が、菅副総理(当時)とスッタモンダの末押し切った2,000万円から大きく減額される見込みだ。

 いずれにしろ日本郵政の「非正規社員の正規化」は、国民新党を加えて過半数を割るようなことさえなければ実現しそうだ。

 政権交代を成し遂げた昨年の衆院選挙では、全国郵便局長会の「郵政票」が民主党の支えとなった。今回の参院選は非正規社員と正規社員の「郵政票」が獲得議席数に影響を及ぼすことになる。

posted by 田中龍作 at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 雇用 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする