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2010年08月21日

孤独死・行方不明にさせないために〜安否確認〜


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「今日は暑かったねえ、元気みたいだね」と声をかける大嶋さん〜左下〜(20日、常盤平団地=千葉県松戸市=。写真:筆者撮影)


 「○○さん、いる?」「元気だね、顔色いいから」――孤独死ゼロを目指す常盤平団地自治会と社会福祉協議会の活動の大きな柱に独居者の安否確認がある。常盤平では「見守り」と呼ばれている。

 「見守り」に歩くのは、民生委員や長年の民生委員経験者だ。民生委員を20年以上も務めた大嶋愛子さんの見守りに同行した。大嶋さんは先ずポストに郵便物や新聞が溜まっていないかをチェックする。次に呼び鈴を押し名前を呼ぶ。返事がなかった場合は建物の裏手に回る。夜でも明かりが点いていなかったり、逆に昼から明かりが点いていたりしたら要注意だ。

 まとまった洗濯物が整然と干されていれば安心だという。ヘルパーさんが来ている証拠だからだ。

 大嶋さんは訪ねた相手が部屋にいれば、しばらく世間話をする。この日は71歳の男性から近況を聞くことができた。男性は腎臓を患って人工透析に通院する身だ。心臓も悪い。
 男性は「電車に乗ると腰が痛くてね」とこぼした。それでも大嶋さんは「あなた、顔色がいいから大丈夫よ。この間来た時より顔色がうんといいもの」と励ます。さりげない話の持っていき方はさすがベテランだ。体調の他にも団地のお年寄りの近況にも話が及んだ。男性は時折笑みを浮かべた。1人暮らしになって7〜8年が経つ男性は、大嶋さんとのおしゃべりが楽しかったのだろう。

 「大嶋さんは家族も同然ですか?」と男性に聞いた。

 「家族と言うか、世話焼き婆さんだね」。男性は嬉しそうに答えた。

 楽しい相手ばかりではない。見守りには大変な苦労もある。大嶋さんは認知症の女性(82歳)から毎晩呼びつけられたことがある。女性は「男が来るから、私がお風呂に入っている間、玄関で見張ってて」と言いつけるのだった。大嶋さんは棒を持ち玄関の内側に毎晩立ち続けた。「今日は行けない」と大嶋さんが断ると、女性は警察官を呼んだ。お巡りさんが女性の家を訪ね、大嶋さんに「大丈夫でしたよ」と報告していた、という。

 つい40〜50年前まで、世話焼き婆さんはどの地域にもいた。孤独死もなかった。常盤平団地では大嶋さんらの善意が孤独死を防いでいる。高齢化社会が進み孤独死は益々増えることが予想される。政府や自治体は世話焼き婆さんが復活できるような社会モデルを作る必要がある。


posted by 田中龍作 at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 高齢化社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

葬式を出さなくても済ませるには


 生きていれば104歳になる母親の遺骨を息子がリュックサックに入れていた、という東京・大田区で発覚した事件。ワイドショーの司会者は「年金を不正受給していたかもしれませんねえ」などと話していたが、筆者は別のことが頭に浮かんだ。

 息子はワーキングプアで葬式を出す金がなかったのではないか、と。葬式には莫大な費用がかかる。5〜6年前、妻の父が心臓マヒで死亡し、こじんまりとした葬式をあげた。参列者は親戚だけ。食事も義父の家で取ってもらった。これ以上できない、と言うほど節約したのだが、葬儀社には300万円払った。

 筆者の父は生前「死ぬのにも金がかかる」と言い、葬式のための金をとり置いていた。親戚筋に冠婚葬祭を豪華に挙げたがる人がいたりすると大変だ。そのために借金を負ったりする羽目になることもある。

 筆者は紛争地域に取材に行く機会が多いので、天寿を全うせずにあの世に行く可能性が普通の人よりも高い。だが、葬式を出す蓄えはない。このため「葬式は出さなくともよい」という遺言を公証役場で作ってもらった。後に残された妻に借金を負わせたくないからだ。これだと火葬場に払う数万円だけで済む。

 一日一日、食っていくのがやっとのワーキングプアが親の葬式など出そうものなら、借金で夜逃げしなくてはならなくなる。ワーキングプアでなくても葬式の経済的負担は多大だ。親の葬式で莫大な借金を背負わされたためにホームレスとなり、山谷に流れ着いた洋食のコックがいた。

 十分な蓄えがない人は「葬式は出さなくてもよい」という遺言を公証役場で作ってもらうことをお勧めする。親戚にうるさい人がいても大丈夫だ。
posted by 田中龍作 at 11:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 高齢化社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月14日

孤独死・行方不明にさせないために 〜ホームレス支援〜


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病院での人工透析から帰ってきた入寮者の車イスを押すスタッフ(墨田区八広のNPO法人「ぽたらか」で。写真:筆者撮影)


 墨田区八広は荒川土手沿いの典型的な東京の下町だ。「孤独死・高齢者行方不明問題」の端緒となった足立区と路上生活者が身を寄せ合うようにして暮らす墨田公園の両方にほど近い。ホームレス支援のNPO法人「ぽたらか」がそこにあると聞き訪ねた。

 「ぽたらか」には要介護認定を受けた17人が入寮している。ほとんどが認知症でホームレス経験者だ。行き倒れで病院に運ばれ、退院後行き場のない人たちが、社会福祉事務所の相談員に連れられて来る。

 昨年末入寮した金沢敏夫さん(仮名・63歳)は、亀戸公園で路上生活をしていた。深酒がたたり脳梗塞で倒れたところを保護され、病院退院後、足立区福祉事務所の紹介で「ぽたらか」で暮らすようになった。

 金沢さんはトラック運転手だったが、不況で職を失い路上に弾き出された。収入があった頃は福島県に残してきた妻子に仕送りをしていたが、仕事がなくなるとそれも出来なくなった。家族との音信も途絶えた。

 金沢さんに住み心地を聞くと「最高、すべてが揃っていて心配することは何もないから」。最近テレビで話題になっている孤独死についても「ここにいれば孤独死なんて関係ないよ」と屈託なかった。実に明るいのである。

 この日の夕食は「巻き寿司」「卵豆腐」「マグロの山かけ」というメニューだった。「我が家よりはるかに豪勢ですね」と筆者が言うと、金沢さんは「うん美味しいよ」と笑いながら答えた。

 最年少の男性スタッフ(43歳)は、インターネットで「ぽたらか」を知り東海地方から上京した。「かつて自分が住んでいたマンションから孤独死が大挙出そうなことが分かり、そんな世の中にしたくないと思った」と語る。

 男性は「ぽたらか」に来るまで車イスを押したことがなかった。「小さく縮んでいても人は意外と重い」。男性は車イスを初めて押した時の感想を語ってくれた。筆者も意外に思った。一人一人が背負ってきた人生の重みなのだろうか。

 「ぽたらか」副代表の西村貢二さん(55歳)は言葉を噛み締めるようにして話す―「もっと入寮者を増やしたい。要介護者だけでなく健常者にも入ってもらえるようにしたい。そうすれば一人でも孤独死を減らせる」。
posted by 田中龍作 at 18:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 高齢化社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする