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2011年02月23日

独裁政権下の記者登録

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 ムバラク大統領を吸血鬼に模した横断幕。国民の生血を啜っているという意味だ。(11日、タハリール広場。写真:筆者撮影)。


 タハリール広場に入るには軍のチェックポイントを通過しなければならない。2月7日頃からだった。軍が広場に入る外国人ジャーナリストに対して「エジプト政府の記者証を取得するように」と言うようになった。それまでパスポートと自国の記者証を見せれば、すんなりとOKを出していたにもかかわらずだ。

 チェックポイントの指揮官は「先に取りに行け」という。「すぐに出るのか?」と聞くと「翌日発給される」という。

 革命の震源地であるタハリール広場に入らないことには仕事にならない。さあ大変。カイロに支局を置く大手メディア以外のジャーナリストは皆、エジプト政府発給の記者証取得に走った。エジプト政府のプレスセンターは国営放送ビルの2階にある。

 プレスセンターは外国人記者たちでごった返した。身分証明書用写真を本国から持たずに来た記者は大弱りだった。騒乱でカイロ市内の商店は悉くシャッターを閉ざしている。営業している写真館を探すのは至難の業だ。

 プレスセンターの壁にはムバラク大統領(当時)のパネルがデカデカと掲げられていた。この国のプレスもムバラクに支配されていることを象徴していた。筆者は写真を撮りたくてウズウズしたが、見咎められたら記者証は発給されなくなるだろう。はやる気持ちを抑えた。

 筆者の記者証申請を受け付けた担当者(40代女性)は「明日出る」と言った。翌日の午前中は控えゆとりを持って午後、記者証を受け取りにホテルから国営放送まで足を運んだ。

 担当の女性は「夜になる」と言った。“エジプト時間”と諦め、1日以上待つことにした。2日後に行くと件の担当者は涼しい顔で「Not yet」。

 筆者が驚く顔をすると「彼らは先週の土曜日から待ってんのよ」と欧州のジャーナリストたちを指差した。

 真っ赤なウソである。軍が「エジプト政府の記者証を取るように」と言い始めたのは週明けの月曜日からなのだ。

 エジプト政府発給の記者証がなくても広場の西側ゲートからは入れた。軍はチェックしなかった。筆者はじめ多くの外国ジャーナリストは西から入った。

 タハリール広場で顔を合わせる外国人ジャーナリストたちに「記者証を取ったか?」と尋ねたが誰一人として「取った」と答えた記者はいなかった。

 タハリール広場には連日数万人〜数十万人の市民が集まり「ムバラク打倒」を叫んでいた。エジプト国営放送は「集まったのは300人」と報道していた。

 外国人ジャーナリストはありのままを伝える。親ムバラク派の住民は「お前たちが革命、革命と煽るからこうなったじゃないか」と叫んで外国人記者をボコボコにしたり軍に突き出すなどしていた。

 エジプト政府のプレスセンターは外国人ジャーナリストの取材活動を妨害するため、出す気もないのに記者証取得のために足を運ばせたようだ。

 癒着し合った身内は構わないが、外国のジャーナリストが来て真実を明らかにされると困る。身内以外は排除する日本の記者クラブ制度と同じシステムがエジプトにもあった。  


 ◇
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2011年02月18日

今明かす「紛争地域取材術」〜その2〜

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タハリール広場の北側地区。ムバラク支持派の住民が多い。外国人ジャーナリストの多くはここでボコボコにされたり軍に突き出されたりした。(カイロ市内。写真:筆者撮影)。


  【取材の成否はコーディネーターで決まる】

 知らない地で取材するには案内役が必要だ。あそこに行けばこんな光景があり、その話はあの人に聞くと分かる。こうしたアレンジをしてくれるのが現地コーディネーターだ。

 優秀なコーディネーターはそのものズバリの所に連れて行ってくれる。核心をつく話をする人に合わせてくれる。取材は成功する。

 ボンクラだとその逆になる。取材は失敗する。焦点が当ってないと感じたら心を鬼にして解任するしかない。

 有能なコーディネーターは感謝の念と共に思い出に残る。10年前、アフガンで案内役を務めてくれたモハマディー氏はその筆頭だ。

 北部同盟の中核となったマスード派の基地に連れて行ってくれたのだが、そこには内戦の真相があった――

 新政府がソ連製や中国製の武器を回収に訪れていた。回収した兵器は米国が買い取り、代わりに米製の兵器を売りつけるというのである。

 周辺国が内戦を煽り続け、戦争終結後は米国の兵器産業が儲ける構図である。学者がこね回す理屈ではなく、実態をリポートするのがジャーナリストだ。モハマディー氏はその現場を筆者に見せてくれたのである。

 彼は豪胆かつ細心な男だった。地雷原を歩いた時のことだ。「俺の足跡以外は踏むなよ」と筆者に言いつけて先導してくれた。そうして無事目的地にたどり着くことができたのである。コーディネーターがモハマディー氏でなかったら筆者は片足を失っていたかもしれない。

 今回のカイロ取材でお世話になったアブダッラー氏も秀逸だった。民衆にボコボコにされたり軍に拘束されたりしたジャーナリストは、たいがい北側からタハリール広場に入っている。到着初日に「北側はムバラク支持派が多いので危ないからね」と彼が教えてくれたから、筆者は最後まで無事に取材できたようなものだ。もっともアブダッラー氏が軍に拘束されてしまったが・・・

 次の取材でも「優秀なコーディネーターに出会えますよう」。アラーの神に祈りつつ筆を置く。

                  (つづく)



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2011年02月16日

今明かす「紛争地域取材術」 〜その1〜

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『反ムバラク派』の市民による検問。「ヤパン、ケンチャ(=日本人ジャーナリスト)」と言ってパスポートを提示し、チェックポイントを通過する毎日だった。(写真:筆者撮影)。


 筆者は生来悪運の強いタチなのだが、運だけでは紛争地域で降りかかる災厄を潜り抜けることはできない。戦争状態や革命の最中であったりして治安が機能していないからだ。警察そのものが市民や外国人に対して「悪さ」を働くのも紛争地域の特徴である。

 怖いもの見たさの旅行者や紛争地域を取材したい若きフリージャ−ナリストたちの参考になれば幸いである。 

 【命を左右するパスポート】

 海外旅行のガイドブックによく「命の次に大事なのがパスポート」と書かれている。紛争地域ではパスポートは命さえ左右する。一例を挙げよう。

 「アラブ世界に行く時はイスラエルのスタンプを押したパスポートを持って行ってはならない」。これは中東在住経験のある商社マン、外交官、ジャーナリストたちの鉄則である。
 
 ヨルダンとエジプトはイスラエルとの間で和平協定を結んでいるため、パスポートにイスラエルのスタンプを押していても入国はできる。ただし安全なのは空港までだ。街に出れば民間人にパスポートを見せなければならない場合がある。イスラエルのスタンプがあったりしたらもう大変だ。

 市民革命で一時騒乱状態となったカイロでは辻(交差点)という辻で自警団が検問した。自警団は拳銃や山刀で武装していた。タハリール広場に入るには5〜6回も「反ムバラク派」の市民によるチェックを受けた。

 騒乱を機に1300〜1500人もの受刑者が脱獄したからだ。まっとうなエジプト国民はIDカードを、外国人はパスポートを所持している。どちらも提示できなければ脱獄者ということになる。

 「親ムバラク派」は財産を守るため、「反ムバラク派」はタハリール広場での妨害工作を防ぐために、通行者の身分を厳重にチェックした。

 タハリール広場周辺では多くの外国人ジャーナリストがボコボコにされたり、軍に突き出されるなどした。最も多かったのは米国人記者だ。「嫌米・嫌イスラエル」はアラブ人の共通感覚である。

 米国人記者もそんなことは十分承知している。「俺はオーストラリアンだ」などと嘘をつきたい処だろうが、パスポートでモロバレだ。ユダヤ系特有のDavidなどという名前だったりしたら「殺して下さい」と宣言しているようなものである。

 筆者のパスポートにはイスラエルのスタンプが押されていた。パレスチナ自治区ガザに入る際、エレツ検問所で押印されるのである。空爆直後の昨年2月と今年の7月に2度も押されている。

 カイロ空港まで行ったはいいが、街では身動きが取れないだろう。ヘタをすれば袋叩きだ。「イスラエルのスタンプが押されたパスポートは変えろ」の鉄則に従い旅券を再発行してもらうことにした。

 有楽町のパスポートセンターで「紛失届」を出したのである。「大晦日の大掃除でゴミ袋に紛れ込んだものと考えられます」と書いて。

 アラブ側に行く際は必ずと言ってよい程こうなる。一体これまで何通のパスポートを“紛失”したことか。

                                (つづく)
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